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  本の紹介

 中田哲也 著: フードマイレージ −あなたの食が地球を変える− 

        2007年発行 日本評論社 227頁(他に附表等11頁)

(本の構成)

 はじめに

  1 フードマイレージを考える背景
  2     私たちの食と地球環境問題
  3     フードマイレージの考え方と輸入食料のフードマイレージ
  4     フードマイレージと地産地消、食育
  5     フードマイレージから「食」を考える
  あとがき

 書評)

  著者は、農林水産省の九州農政局で消費生活課長を務める現役の公務員であり、一時、農林水産政策研究所に在籍していたことがある。本書の主題である「フードマイレージ」については、その頃の経験をもとに、万人向けにまとめられたようである。

  本書の「フードマイレージ」という概念は、イギリスの「フードマイルズ」運動を参考にしている。「フードマイレージ」は、食料の輸送量に輸送距離を乗じた数値を累積して求められる。この言葉は、距離を表すマイルズよりも輸送経路や輸送手段などのニュアンスが含まれ、また、日本人は航空会社のマイレージサービスという言葉に慣れているので、マイレージの方がなじみやすいであろうということから、当時の篠原農林水産政策研究所長によって「フードマイレージ」という言葉が造語されたそうである。

  筆者は、以前にテレビ番組で、英国のスーパーの売り場で個々の商品に「フードマイルズ」が書かれたラベルが張られていて、環境問題に関心のある消費者が「フードマイルズ」の値の小さなものを選んで購入している光景を見たことがあり、本書を読んでこのことを思い出した。

 著者は、「フードマイレージ」の持つ意味について、単に輸送距離と言うだけでなく、4つに整理される意味合いが含まれると述べている。その内容の第1は、輸送距離が長くなるほど輸送途上の事故や不測の事態に対するリスクが大きくなる、第2に、輸送距離が長く輸送時間がかかるほど食品の腐敗などの安全性のリスクが大きくなる、第3に、遠隔地で生産されて生産者との距離が長くなるほど消費者の不安感が大きくなる、第4に、輸送距離が長くなるほど二酸化炭素排出量などの環境負荷が大きくなるということである。

 本書には、「フードマイレージ」の計算方法が書かれており、附表にも海外の生産地からの距離の一覧表が掲載されている。日本の輸入食料全体の「フードマイレージ」が西洋諸国や隣の韓国、米国のそれと比較されており、日本の値は飛び抜けて大きな値となっている。一人当たりで見ると、日本は一位であるが韓国もかなり大きな値となっている。日本の「フードマイレージ」が相対的に大きいのは、大量の食用および飼料用の穀物と油糧種子を米国、カナダ、オーストラリアなどの遠隔地から輸送しているためであることが分かる。

 著者は、輸入食料が輸出国内では陸送され、海上は全て船舶で輸送されたと仮定し、二酸化炭素排出量を推定し、1690万トンと概算している(日本全体の二酸化炭素排出量は133200万トン:2000年度環境省資料)。なお、上記の値には輸入食料の国内での輸送分は含まれておらず、国内での輸入食料を含めた全食料の輸送に伴う二酸化炭素の排出量は900万トンと推定されている。

  そして、輸入農産物を国産農産物や地産地消のものと比較した場合に、「フードマイレージ」に際だった違いがあることが分かり、「食育」の場での「フードマイレージ」に基づく様々な取り組み事例が紹介されている。

 最後に、著者は、「フードマイレージ」から見えてくる望ましい食のあり方についても、現状の問題点を指摘しつつ述べている。

  本書を読んで、日本と輸出国との地理的な位置関係から、日本の食料全体の「フードマイレージ」が国際的に見ても大きいことはやむを得ない面があると思う。また、輸入食料が安価で豊富なこと、中国野菜等の農薬問題はあるがいずれ安全性への監視が行き届くようになるであろうこと、大量の飼料穀物等の輸入に頼らざるを得ない日本の畜産業の現実もある。従って、「フードマイレージ」全体の絶対値が大きいこと自体を問題にするのではなく、消費者や地球環境問題からみて、長距離輸送に伴う二酸化炭素排出などの環境負荷を、国産品の利用、地産地消費の発展、自給飼料の確保などにより、如何にして軽減していくのかが重要であると思われる。

 農業生産と農産物流通に伴う二酸化炭素排出量の更なる分析と表示は今日的な課題である。現在、家庭部門の二酸化炭素排出量の削減運動がなされているが(チ−ム・マイナス6%)、消費者に対して、どのような食生活をするのか(健康のみならず環境も考慮した食材)、輸入品と国産品のどちらを使うかの食品選びで、二酸化炭素排出量がどの程度違ってくるのかを分かりやすく示す必要があろう。このことを通じて、消費者が食品を選択する際に、国産品志向、地産地消志向を強める可能性があり、ひいては、日本や地域の農業にプラス効果をもたらすのではないかと思われる。


  一方では、輸送距離とともに国内の農業生産の過程においても、環境負荷、特に、二酸化炭素排出量に着目して、負荷をより少なくする方向へ改善していく必要があろう。

  消費者から支持され、地球への環境負荷を軽減する農業のあり方、農産物を考えていく上で、本書は新たな見方を提供するものとして参考になると思われる。(2008.3.14/M.M.)
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